無形化世界の戦略論 (8) 知的制海権
Posted by admin on 04 4月 2009 at 09:20 pm | Tagged as: Strategy + Geopolitics
無形化世界においては大学・シンクタンク等の研究機関は海軍(シーパワー)に相当する。
シーパワーの重要性,そして制海権の重要性が認識されるに至った経緯は,以下のようなものである。
それは文明そのものが農業文明の停滞状態を脱し,産業社会に突入して経済規模の拡大に次ぐ拡大を続けることに伴って起こった。つまり通称の規模も経済の拡大に比例する形で増大せざるを得ず,陸上輸送より格段に効率の良い海上輸送に依存していかなければ,その膨れ上がる通商活動を支えていけなくなったからである。
資源すべてを海外に求めず自国内で調達できるという幸運には滅多に期待できないため,どうしても海上に生命線が発生し,その生命線を維持するための商船隊とそれを護衛できる海軍力は,国家にとって不可欠な存在となったのである。
無形化世界の力学と戦略
鉄道が世界中に張り巡らされるようになった近代までは,最もそして圧倒的に効率の良い輸送手段は船であり続けた。資源を持たない小国は,交易によって資源を獲得せざるを得なかった。また相対的に人口が少ないため,ランドパワーから自国を防衛するためには制海権を奪取し,バランサーとして複数のランドパワーとの合従連衡を繰り返す外交戦略が必要だった。そういう経緯を経て,シーパワーの「マンパワーは小さいが,間接的に海上支配を通じて生活圏に影響を与える」という特徴が生まれていった。
無形化世界での制海とは
長沼氏によれば,無形化世界における死活的に重要な資源は「知的資源」であり,産業基盤を支える技術ノウハウやそれを運用する技術者こそが現代国家の生命線であるという。
そして,無形化世界における制海を以下のように定義している。
思索のレベルが上がっていくと,そこには次第に一種の哲学というものが要求されるようになっていく。このレベルになっていくと,そうした哲学なり思想なりを作れるものの影響力というものは極めて強力であり,技術体系や社会制度そのものがそれに支配されて動いていくこともまれではない。
そういう思想をリードし,維持する存在があったとすれば,その影響力を巡って一つの戦略力学が発生するのであり,まさしくその存在こそが,無形化世界において「制海」に任ずる存在だと言うことになる。無形化世界の力学と戦略
この知的制海権を所有している国と,持たざる国との大きな違いは何か。一言で言えば,正統性を主張できるか否かということになろう。知的制海権を所有する国(例えば20世紀のアメリカ)は,自らの正統性を疑うこともなく,思想や技術・政治システムを発展させ続けることが可能である。また,もし自らの覇権に挑戦してくる敵が現れた場合,率先してルールを変えてしまうか,中世ヨーロッパのローマ教皇のごとく異端の烙印を押してしまうことが可能である。
長沼氏は,この知的制海権による知的資源の供給ラインを「知的シーレーン」と呼び,戦略物資の補給線として極めて重要な役割を果たしていると指摘している。例えば,ある国が他国と無形化された戦争状態(経済戦争や情報戦争など)にある場合に,前線支援のため大量の知的資源ー学問・思想・哲学・技術などーを継続的に補給し続けなければならない。それは,経済力(ランドパワー)もメディア(エアパワー)のどちらも,新規技術や情報による後押しがなければ,徐々に消耗し前線にて孤立せざるを得なくなるからである。そうした場合に,知的シーレーンを確保していた場合にはスムーズに知的戦略物資を補給出来るのに対し,知的シーレーンを喪失していた場合は孤立した前線ではかなりの苦戦が予想される。
このことは,無形化された戦争における自陣営の防衛戦略に対しても言えることであり,メディアによる情報制空権を突破するためには,その敵陣営の補給路である知的シーレーンを奪うことが戦略上の要となる。すなわち,画期的発明や画期的思想(とその発明者・思想家)といった知的資源を結実できるレベルまで育てあげ,国際舞台でのプレゼンスを高め,自陣営の思想や手法の正統性を主張することこそが求められる。

異端審問
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