3月 2009

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無形化世界の戦略論 (6) 運動量一定の法則

admin 25 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

(5)にて他者を自分の意のままにコントロールする力のことをパワーと呼ぶと書いた。従来は他国をコントロールしようとした場合,物理的軍事力に頼ることが多かったが,現在は徐々に無形化世界における戦争(経済戦争・知的闘争・情報制空権争奪戦)へと移行しつつある。旧来の軍事力と,無形化世界でのパワーを定量的に比較する指標として,長沼氏が掲げるのが「運動量一定の法則」である。

軍事部門というものは国家の経済部門の1/10の大きさや体重しか持たないが,それは経済部門の10倍の早さで動く能力をもつ。そのため国境線や勢力範囲を圧迫する能力において経済力に劣らない力を持ちえるわけだが,これはどこか前のテコの話を連想させる。つまり二つをかけた値は結局常に等しくなってしまうのではないかと予想したくなるのである。

経済力をもって相手国を屈服させようとする場合,それは軍事部門よりも一桁多い人数からなる経済社会全体の力を用いることが出来るわけだが,経済的世界は軍事的世界よりも一桁遅い速度でしか動けない。このため10倍の長さの時間がかかってしまうという欠点はあるものの,相手を圧迫するのは両者の積の力であるため,国境線を移動させたり国そのものを屈服させるという点では等しい効力を持ちえるということになる。

体重×速度で示される「運動量」が変化しないという「運動量保存則」あるいは「運動量一定の法則」が経済部門と軍事部門の間で成り立っているとの仮説が成り立つわけである。
無形化世界の力学と戦略
※ここでいう,「体重」とは動員できる構成員の数であり,「速度」とは相手国を消耗させる速度のことである。

この法則から,もし通常の戦争と,経済戦争が相手国に与える消耗の速度比が1:10ならば,

軍事のパワーと経済のパワーの換算を行う場合,一般に後者は前者の10倍のサイズを持っていて1/10の速度で動く
無形化世界の力学と戦略

と長沼氏は述べている。この法則によって,無形化世界における戦争を可視化しようと試みた場合に,戦況が変化する速度を定量的に推測できる。この議論については永井俊哉氏のサイトで批評がなされているが,無形化世界のパワーゲームの状況把握に使うならば,指標として使えると思う。

現在,世界経済は大恐慌に突入しつつある。海外の記事(Foreign Affairsなど)を目にしていても,
2008: The Great Crash
2009: The Great Recession
2010: The Great Depression 2.0
というような見出しが躍っている。この経済動乱もまた一種の無形化された世界大戦の一端を示している。経済戦争,情報戦争(に加え,小規模紛争・テロなど)による混乱は,無形化世界の勢力図をどのように書き換えているのか。通貨戦争,貿易戦争,情報戦争などの無形化世界での戦闘は,冷戦と同様に数十年継続する戦いになるのか,目が離せない。

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無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) (単行本)

無形化世界の力学と戦略無形化世界の力学と戦略

無形化世界の戦略論 (5) パワーとは何か

admin 22 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

今まで述べてきた,ランドパワー・シーパワー・エアパワーなどの地政学用語について補足しておきたい。そもそも,地政学・政治学・軍事学上で用いられるパワーとは,何なのだろうか。Wikipediaを引いてみると,

Political power (imperium in Latin) is a type of power held by a group in a society which allows administration of some or all of public resources, including labour, and wealth. There are many ways to obtain possession of such power. At the nation-state level political legitimacy for political power is held by the representatives of national sovereignty. Political powers are not limited to heads of states, however the extent to which a person (such as Joseph Kony, Subcomandante Marcos, or Russell Means) or group such as an insurgency, terrorist group, or multinational corporation possesses such power is related to the amount of societal influence they can wield, formally or informally. In many cases this influence is not contained within a single state and it refers to international power.

Political scientists have frequently defined power as “the ability to influence the behaviour of others” with or without resistance.
For analytical reasons, I.C. MacMillan[1] separates the concepts power

Power is the capacity to restructure actual situations.
—I.C. Macmillan
and influence

Influence is the capacity to control and modify the perceptions of others.
—I.C. Macmillan
Political Power @wikipedia

Power projection (or force projection) is a term used primarily in American military and political science to refer to the capacity of a state to conduct expeditionary warfare, i.e. to implement policy by means of force, or the threat thereof, in an area distant from its own territory. The United States Department of Defense, in its publication J1-02: Department of Defense Dictionary of Military and Associated Terms, further defines power projection as

The ability of a nation to apply all or some of its elements of national power – political, economic, informational, or military – to rapidly and effectively deploy and sustain forces in and from multiple dispersed locations to respond to crises, to contribute to deterrence, and to enhance regional stability. [1]

This ability is a crucial element of a state’s power in international relations. Any state able to direct its military forces outside the limited bounds of its territory might be said to have some level of power projection capability, but the term itself is used most frequently in reference to militaries with a worldwide reach (or at least significantly broader than a state’s immediate area). Even states with sizable hard power assets (such as a large standing army) may only be able to exert limited regional influence so long as they lack the means of effectively projecting their power on a global scale. Generally, only a select few states are able to overcome the logistical difficulties inherent in the deployment and direction of a modern, mechanized military force.

While traditional measures of power projection typically focus on hard power assets (tanks, soldiers, aircraft, naval vessels, etc.), the developing theory of soft power notes that power projection does not necessarily have to involve the active use of military forces in combat. Assets for power projection can often serve dual uses, as the deployment of various countries’ militaries during the humanitarian response to the 2004 Indian Ocean earthquake illustrates. The ability of a state to project its forces into an area may serve as an effective diplomatic lever, influencing the decision-making process and acting as a potential deterrent on other states’ behavior.
Power Projection @wikipedia

政治学においてのパワーの定義は,「他者の行動に影響を与える能力」である。言い換えれば,他者を自分の意のままにコントロールすることが可能ならば,それはパワーという言葉の範疇にくくることが出来る。従来は,パワーといえば軍事力などのハードパワーを指すことが多かったが,現在の世の中では,国際政治の舞台でいかに効果的に政治・経済・軍事・情報などのパワーを行使するかという点が重要視されている。ジョセフ・ナイの唱えるソフト・パワー,スマート・パワー論は,軍事力・情報力・恫喝・娯楽・などを複合したパワーのオペレーション方法と言えるかも知れない。

ソフト・パワー(Soft Power)とは、国家が軍事力や経済力などの対外的な強制力によらず、その国の有する文化や政治的価値観、政策の魅力などに対する支持や理解、共感を得ることにより、国際社会からの信頼や、発言力を獲得し得る力のことである。対義語はハード・パワー。
ソフト・パワー @wikipedia

小国にもかかわらず圧倒的な発言力を握っているイスラエルなどは(ロビー活動や,金融支配,ホロコーストなどの宣伝戦などを通じ)総合的なパワーを有していると言える。

無形化世界の戦略論 (4) 無形化されたパワーの席巻

admin 18 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

無形化されたパワーによる拮抗状態の突破( 無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) )

無形化されたパワーによる拮抗状態の突破( 無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) )

(3)で紹介した無形化パワー

(i) 経済力 (=ランドパワー)
(ii) 研究機関の知的影響力 (=シーパワー)
(iii) メディアの力 (=エアパワー)

がなぜこれほどまでに力をつけてきたのだろうか。

一つには,冷戦下における西側と東側の軍事的拮抗状態を突破するための西側の戦略が成功したことが挙げられる。冷戦下においては,西側・東側両陣営が核戦力の軍拡競争を行い,一触即発の危機が続いたものの,結果として互いの目論見である軍事力を背景として相手に譲歩を迫る恫喝戦術はことごとく失敗に終わった。それは,両陣営が強力な抑止力を互いに有していたためである。

戦略核,戦術核といった破壊力が強大な兵器は,通常戦力に対しては強い抑止力を持つ。例えば,戦車部隊で国境を突破した敵に対し,戦術核で報復するといった用途である。

しかし,経済力やメディアなどの無形化されたパワーに対しては,核戦力は抑止力を持たない。経済戦争や,メディアによる報道合戦があったとしても,ただちにそれに対する報復として核戦争を誘発するという自体までエスカレートさせるのには非常に勇気が必要となるからである。その結果,無形化されたパワーは軍事的拮抗状態においても自由に行動することができ,その攻撃を受ける側は保護貿易やジャミング(電波妨害)など消極的な対応をせざるをえない。

その結果,冷戦においては西側の経済力・メディアが東側を圧倒し,最終的には東側体制崩壊という勝利を収め,無形化されたパワーというものの存在が大きくクローズアップされることとなった。

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無形化世界の戦略論 (3) 無形化世界におけるパワー

admin 14 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

無形化世界においても,過去の陸海空軍三軍と類似の特徴を持つパワーが存在する。それが,
(i) 経済力
(ii) 研究機関の知的影響力
(iii) メディアの力

の3つである。それぞれのパワーを特徴づける要素を見ていこう。

経済力とはどのようなパワーか

経済力は,国力の基礎であり,貿易・生産・消費など日常生活に密接に関わっている。
長沼氏によればは,経済力の特性は,以下のようなものである。

  • 経済活動に動員される人員がきわめて多い(=マンパワーが大)
  • 経済活動は,計画されてから投資がなされ,実際に動き出すまで時間がかかる(=速度が小)
  • 経済活動は,生活圏に密接に関わっている(=影響力が直接的)
  • 経済活動は,ひとたび動き出せば,継続的に影響力を維持し続けることが可能である。(=常駐能力あり)

この特徴は,人員が多く,速度は遅いものの,ひとたび動きだし陣地を獲得すれば,長期間に渡って生活圏を直接的に支配し続けることが可能な「陸軍,ランドパワー」に相当する。

陸軍

陸軍

研究機関とはどのようなパワーか

シンクタンクや大学などの研究機関の主な仕事は,産業の基盤技術の開発,経済政策の裏付けや,政策の詳細な検証・立案,ルール策定などを通じて社会の方向性を決め,発展の可能性を広げることである。

  • 研究機関は,少数精鋭の場合が多く,動員される人員は少ない(=マンパワーが小)
  • 研究機関は,研究開始から成果を出し,影響力が生じるまでに時間がかかる(=速度が小)
  • 研究機関は,あくまでアカデミズムの分野の話で,生活圏には直接には影響はない(=影響力が間接的)
  • 研究機関は,ひとたびその分野での成果・権威を獲得すれば,継続的に影響力を維持し続けることが可能である。(=常駐能力あり)

この特徴は,速度が遅く,あくまで生活圏には間接的にしか影響を及ぼすことはできないものの,海上封鎖などで間接的に長期間に渡って,生活圏・交易圏を支配できるという点で,「海軍,シーパワー」に相当する。

例えば,アカデミズムの分野や,国際会議などにおいて強い発言力を獲得できれば,その後長期間に渡って絶大な影響力を行使し続けることが可能(例えば,国際法や国際規格,スポーツルールなどにおけるスタンダード策定権など)である。

海軍

海軍

メディアとはどのようなパワーか

同様に,

  • メディアは,少人数でも報道可能で,動員される人員がきわめて少ない(=マンパワーが小)
  • メディアは,即座に情報を発信することができる(=速度が大)
  • メディアは,人々が目に触れる情報をコントロールすることで生活圏に密接に関わっている(=影響力が直接的)
  • メディアは,同じテーマで人々の関心を惹きつけておくことができず,テーマを転々と変更していく。(=常駐能力なし)

この特徴は,少数精鋭で素早く敵地を爆撃し,多大な影響を与えることができるが,敵地に常駐することのできない「空軍,エアパワー」に相当する。

空軍

空軍

参考図:各国経済力比較
経済力

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無形化世界の戦略論 (2) 無形化世界

admin 08 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

無形化世界とは何か

現代では形のある物理的な軍事力のようなパワーが主役の座を降り,経済力をはじめとする無形化したパワーが世界を動かす主役となった。そして現代では時を経るごとにコンピューターの中の数字が一種の仮想的な現実として力を強め,物質そのものを圧倒し始めている。[無形化世界の力学と戦略

第二次世界大戦以後の世界情勢は,東西陣営による核ミサイル軍拡競争による恐怖の均衡によって,直接的に軍事力を使用する有形の戦争は減少した。核兵器というジョーカーによる通常兵器の無力化である。これがパワーの無形化である。そして,無力化された通常兵器に取って代わるものとして,新たにパワーとして頭角を現して来たのが
(i)   国家・企業間での通貨戦争や貿易戦争などの経済戦争,
(ii)  大学・シンクタンクなど知的機関による学問領域における正統性争い・覇権争い,
(iii) TVや新聞,報道機関などメディアを通じた報道戦争・イデオロギー戦争である。
これらの争いでは,軍事力を行使しないため,「見えざる戦争=無形化世界における戦争」である。大規模戦争が勃発しなくなった昨今では,これらの無形化世界における戦争こそが重要なのであり,その可視化と定量化,そして無形化世界での戦略を構築すべきというのが長沼氏の意見である。

無形化したパワー

無形化世界におけるパワーとして,長沼氏が挙げるものは以下の三つである。
(i)  経済力
(ii) 研究機関の知的影響力
(iii) メディアの力

これらの漠然とした無形化したパワーの特徴を捉える上で,理解の手がかりとなるのが,過去の陸海空軍とのアナロジー(類似性)である。過去の有形のパワーと無形化したパワーの間にはある程度の類似性があり,その類似性に基づいて無形化世界の特徴を浮かび上がらせようというのが,無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) (単行本) の一貫したテーマである。このアナロジーを用いることで,過去に蓄積されてきた(有形の)戦略論・戦術論・地政学などの知的資産を活用することができ,無形化世界における戦略を考える土台として使えることになる。

無形化世界

無形化世界の俯瞰図

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無形化世界の戦略論 (1) 著者紹介

admin 08 3月 2009 | : Strategy + Geopolitics

長沼伸一郎氏の「無形化世界の力学と戦略」にて展開されている,現在の無形化世界における戦略論を紹介していきたい。

長沼伸一郎氏とは

長沼伸一郎氏は,「物理数学の直観的方法」という数学参考書を若干26歳のときに世に出したベストセラー数学作家である。その後,経済や軍事,建築などの分野を,理系の視点から解析した書籍を出版している。
参考:「ステルス・デザインの方法―イルカの記憶と都市の閉塞感を減らす技」

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