5月 2009
Monthly Archive
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admin 24 5月 2009 | : Business + Analysis
2007年から続く経済危機の影響で,世界各国は自国通貨切り下げ・通貨増刷策をとり始めた。自国企業の救済のためや,景気対策などが主要な目的である。その世界的潮流の中で,従来のドルペッグ制をやめ,湾岸統合通貨を計画していたUAEやオマーンが相次いで和計画への不参加を表明した。また,東方拡大を続けていたユーロ圏も,各国が自国経済重視策をとり始めたことで従来の財政規律を守れずほころび始めている。ドルの崩壊が間近に迫って来ているが,可能な限りその余波を受けぬよう自国経済の切り離しに躍起になっているように見える。果たしてどの国がサバイバルを乗り切れるのか。

euro硬貨(国境のない欧州)
欧州連合は1950年代より半世紀の期間をかけ,用意周到にエネルギー・産業同盟(石炭・鉄鋼)から出発し,段階を経て現在の地位を築き上げてきた。その過程では各国の思惑の違いはあっただろうが,
などの利点があることから,各国は自国の裁量が小さくなるという犠牲を払ってまでEU,そしてユーロに加盟してきた。現在ではユーロは世界第二位の通貨にまで成長し,ハードカレンシーとして外貨準備にも加えられるようになった。(実際にはユーロの流通量の大半はEU圏内であり域内貿易の活性化という硬貨が主体である。)2000年代に入ってからは,東欧という旧ソ連圏の未開拓市場への投資と人材獲得を目指して,東欧諸国を吸収合併する形で続々と東に膨張していた。
しかし,ユーロ加盟の条件として,厳しい財政規律を求められることで必要な景気対策を打ち出せない問題,また各国が一枚岩で動くことはないため投機マネーによる通貨攻撃を防ぎきれないという問題が露呈している。
ユーロ加盟条件となっていたのは,「国家予算の赤字を対GDP比で3%以下に押さえること」と,「国家負債を対GDP比で60%以下に抑えること」,そして「過去1年間、消費者物価上昇率の最も低い3カ国の平均値を1.5%より上回らないこと」である。(マーストリヒト条約)今までも財政的に厳しいイタリアなどでは中央銀行の所有する金を売却するなどして,何とかユーロ加盟条件を満たしてきた。
また通貨としての脆弱性についてだが,ユーロは外貨準備が統合されておらず,通貨が攻撃された際に反撃として欧州中央銀行の為替介入できる裁量権が限られている。つまり日銀砲のような武器がないため,売り崩しなどの撹乱を受けやすい。
そこで今回の危機である。財政規律を厳密に守っていては,大不況・大恐慌対策など出来ない。どこかの段階で財政規律を無視してでも自国企業を助けるというような政策を取らざるを得なくなるだろう。今のところは,各国中央銀行が所有する金の売却など資産の切り売りによって通貨増刷,企業救済に動いているようであるが,今後危機が深刻化すれば一部の国がユーロ脱落することも考えられる。特に東欧諸国へ多額の投資を行っていたドイツや,バブルに沸いていたスペインなどは当分の間厳しい現実に直面するだろう。
湾岸通貨のルーツは,原油のドル決済という暗黙のルールを押し付けられていた湾岸諸国が,今後減価するとみられるドルでの支払いを嫌がったことに端を発する。当初はドル紙幣で受け取ったオイルマネーをロンドン経由で世界各地に投資を行っていたが,デリバティブ崩壊などの影響でアラブ諸国の拠出した資金は数分の一以下にまで毀損している。原油のドル決済というシステムは,瀕死のドルにとっては唯一の命綱だった訳だが,近々ドルの崩壊が予測され,それに対応するように2010年に湾岸諸国はドルペッグではない湾岸通貨を作る予定だった。しかしながら,今回の湾岸統合案はいわば「石油輸出国同盟+資産保全同盟」であり,通貨統合の目的自体が,EU圏内のように域内貿易を活性化させるといった波及効果を狙ったものではないため,統合への意欲に欠けている。また産業構造の違い(対外債権国(UAEやクウェート,カタールなど)か,対外債務国(サウジアラビアなど)か,原油輸出への依存度の違い)などから,誕生する新通貨へのビジョンも異なることから亀裂が生じていた模様だ。
ユーロ圏を参考に,通貨統合の条件を調べてみると,以下のような項目が考えられるようだ。
東アジア域内は,貿易が活発に行われており,EUのように域内貿易に東アジア通貨を使うことで関税節減による市場拡大を期待できることは確かだが,現時点では障害も多い。各国の経済規模や物価上昇率の乖離が大きく,今のまま統合しても一部の地域はバブル,一部の地域はデフレという状態に陥ると考えられている。(東欧・北欧バブルとドイツのデフレのようなもの)。また各国内でそこまで東アジア通貨を希求する声はまだ上がっておらず,今から始めても準備に数十年は要するであろうこと。また経済規模も今後のアジアの成長を考えれば,EUの数倍の経済規模になることが予想され,どこまでコントロールできるか未知数であることなどが考えられる。
一方で,BRICS諸国間ではロシアのルーブルと中国の人民元を「ドルを介さずに」交換できるようにしたりと中国を中心に積極的にドル抜きでの交易体制を築こうとしている。今回の危機で,米国・ロシア・東欧などは大打撃を受けているが,中国だけは虎視眈々と世界各国と資源外交やバラマキなどの交渉を続けており,世界一の外貨準備を武器に危機後の世界で主導権を奪う準備が整いつつあるようである。
UAE、湾岸通貨統合への不参加を表明
[ドバイ 21日 ロイター] アラブ首長国連邦(UAE)は20日、湾岸協力会議(GCC)加盟国が長らく進めてきた通貨統合計画からの脱退を表明した。これを受けて、通貨統合実現の可能性だけでなく、統合が持つ影響力が疑問視されている。GCC加盟6カ国は、10年近くかけて通貨統合を協議してきた。しかし、すでにオマーンが脱退を表明。UAEで2カ国目となる。今回のUAEの不参加によって、GCCの通貨統合計画は崩壊しないまでも勢いを失ったとの声がでている。
UAEの脱退は、統一中央銀行の設立場所がサウジアラビアに決定したことに関係しているとみられている。
Dollar’s power accepts no alternatives whatsoever
A crisis is not a good time for seeking alternatives to the US dollar. Most likely, the dreams about new regional currencies will be put aside. The countries, which originally supported those ideas, gradually change their minds. The United Arab Emirates refused to participate in the Arab currency union. The expansion of the euro zone is not likely to happen in the nearest future. The Russian ruble is no longer ambitious either.The subject of new alternative reserve currencies appeared when the crisis was gathering pace. Numerous publications reported about the possible introduction of the new currency in North America, the Amero. The Russian government put forward the idea to make the Russian ruble become a regional reserve currency too.
It seems that the subject of new currencies has been pushed into the background now. Many experts said that it would be extremely difficult and even impossible to launch such massive projects during the time of the crisis.
Official spokespeople for the foreign ministry of United Arab Emirates stated Wednesday that the nation would not be a part of the currency union in the Gulf, RIA Novosti news agency reports.
The decision to establish the Arab currency zone was made several years ago by Saudi Arabia, the United Arab Emirates, Kuwait, Bahrain, Qatar and Oman. Oman has already pulled out from the agreement. The UAE’s refusal to participate in the currency union of the Persian Gulf weakens the monetary unity of the Arab countries of the region.
The decision is based on purely economic reasons for there are no political differences between the countries. The refusal to take part in the union is most likely connected with the economic crisis. It is worthy of note that many key issues – the budget deficit restriction, the inflation rate and many other macroeconomic indexes – remain unsolved.
The euro, for example, retains its current position owing to the fiscal discipline of the members of the European monetary union. The countries of the euro zone observe the stability and development agreement, which restricts budget deficits (three percent of the GDP is the maximum) and sovereign debts (60 percent of the GDP) of the members of the currency bloc. That is why the present members of the euro zone were highly skeptical about the expansion of the European Union under the conditions of the crisis.
The euro was introduced to simplify the turnover of commodities between the European states: together these countries make a self-sufficient region. Unlike Europe, the Arab states are focused on the export of their products to the West and to Asia. Therefore, the introduction of the joint currency may not produce the desired effect.
Darya Yurischeva
admin 23 5月 2009 | : History + Sociology
現在の国家主権などで使われる「主権 Sovereignty」という概念は,歴史的にはヨーロッパにおいて中世が終わり,近代国家が誕生する過程で生じたものである。日本においては,主権の形骸化が進んでいると言われるようになって久しいが,そもそも主権とは何かを考えてみたい。
中世ヨーロッパの秩序においては、俗界の皇帝や諸侯は、多かれ少なかれ、ローマ・カトリック教会の権威に従属していた。また、俗界の支配関係は、土地を媒介として重層的に支配服従関係が織り成される封建制により規律されていた。例えば、神聖ローマ帝国においては、領邦君主は帝国等族として皇帝に従属し、領邦においては、領邦等族が領邦君主に従属していた。
しかし、このような中世的秩序は、次のような過程を経て、徐々に崩壊していくことになる:
・マルティン・ルター等の宗教改革により、ローマ・カトリック教会の宗教的・政治的権威が揺らいだ。
・宗派間対立の妥協として、アウグスブルクの宗教和議により「ある者に領土の属する場合には、その者に宗教もまた属する(cuius regio, eius religio)」という領邦教会制が生まれた。この結果、領邦君主が領邦の宗教をルター派とすることにより、カトリック教会の支配から独立することが可能となった。
・宗教戦争である三十年戦争が勃発した。その講和条約として、ヴェストファーレン条約が締結された結果、ヴェストファーレン体制という勢力均衡の国際的な枠組が生まれ、国際法上国家は平等であるという原則が形成された。
・ナポレオンの侵攻が原因で、神聖ローマ帝国において次のことが起こった。
・世俗化(Säklarisation)により、聖界諸侯の領邦は廃止された。
・陪臣化(Mediatisierung)により、すべての聖界諸侯と多くの俗界諸侯が、皇帝ではなく領邦君主からレーン権(Lehnsrecht)を封じられることになった。つまり、帝国直属の等族(reichsunmittelbare Stände)ではなくなった。結果として、残存した領邦は大規模化した。
・皇帝の廃位によって、神聖ローマ帝国は消滅した。この結果、領邦国家は、法的には他者に従属しない存在となった。
[quoted from 主権@Wikipedia]
封建制時代の中世ヨーロッパにおいては,権威・権力がモザイク状に多層構造をなしていたことが分かる。ある地域の領民からすると,遙か雲の上には絶対的権威としてのローマ教皇がいる一方,権力者としての皇帝もおり,年貢を納めるのは地主(領邦君主)であるという状態である。(実際には教会という形で在地のカトリック派出所は存在し,寄付という名目のの納税も必要であった。)このカトリック教会の権威支配(覇権)と皇帝による物質的支配の両方が,宗教戦争によって弱体化したことによって,中世は終焉を迎えた。
このカトリック教会覇権の衰退によって,多重ピラミッド構造が崩れたヨーロッパは,ヴェストファーレン(ウェストファリア)体制のもと勢力均衡による和平の構築を模索し始める。領邦同士が自国の絶対的内政権を主張する一方,他国に対しては干渉しないという建前を認め合い,排他的な主権=国境が定められた。その結果,人口や経済規模などに関係なく,平等な主権を有する共同体として互いに主権を認め合うことで,近代国家が生じた。
現在の政治学においては,主権は以下のようなものとみなされている。
ヴェストファーレン体制後に主権という概念が生じたとき,当時はまだ「国民主権」「人民主権」という概念は存在せず,基本的には「君主主権」であった。すなわち,平等な権利を有し独立した存在としての領邦国家(生まれたばかりの近代国家)は,その領邦君主が絶対的に統治するということである。そういう意味では,この段階で自国内決定権を行使する「自由」が誕生したと言えるだろう。
その後,フランス革命が勃発し,ヨーロッパにおいて次々に君主が倒され,もしくは表面上権力を剥奪され,国民国家(nation state)が誕生し始める。すなわち,民族・国民という単位で一つの国家を形成しようとする試みである。この国民国家のブームは,20世紀の民族自決主義やナショナリズムを産み現在まで引き継がれている。
国民という概念が誕生したことによって,同じ国家内の人々同士「広義の郷土民・仲間」として共同体意識が生まれ,戦争遂行や産業育成の際に動員できる人員数が格段に増えた。その結果,国民国家はその動員力を活かし,経済的・軍事的に旧来の領邦国家を凌駕していくことになる。
ただ,この国民国家という概念には欠陥があり,自国民(あるいは自民族)への共同体意識と同時にその副産物として多国民・他民族に対するルサンチマンが生じる。ナルシズムとルサンチマンである。ユーゴスラビアや中東,チベット,アフリカの民族紛争などを考えてみれば分かるが,現実には民族・宗教・政治主権はそれぞれ全く別の線で区切られているのであり,純血主義・民族自決など不可能である。そのため,政治主権と民族意識の齟齬が生じた場合,大量の民族難民を産み,また民族浄化というおぞましい結末を招いてしまう。また,民族というのは細かく分ければいくらでも細分化出来るのであり,広大な領土を維持するのは不可能である。
この国民国家の弊害を乗り越えようとして,国家の中に自治州という形で,民族国家を組み込んだのが連邦国家である。現在で言えば,アメリカ合衆国・中華人民共和国・ドイツ連邦共和国・ロシア連邦・スイス連邦など比較的広大な土地を抱えている国や多民族を抱えている国は,完全な中央集権体制ではなく,分権体制を取ることでバランスを取っている。これは主権の中に,さらに「ミニ主権」を用意し,ミニ主権同士が平等な権利を得られるということで不満を吸収しているのだろう。
産業革命以後,爆発的にグローバル化が進み,物流面(貿易)やマネー(金融),戦争(ミサイル・衛星)は世界的に国境を越えて行われることとなった。従来は,貿易も金融も戦争も,主権国家が「自らの意志のみで」決定可能であった。しかし,技術革新によりもはや主権国家が貿易や金融を制限することも,また自国の意志のみで戦争を行うことも極めて困難になっている。
例えば,軍事力に関して言えば,冷戦期は東西陣営の同盟諸国との団結が要求され,自国のみの裁量権はもはや失われている。冷戦後になれば,今度は米国が世界の軍事力の過半を占めるに至り,最先端軍事技術(ピンポイント爆撃など)もアメリカが圧倒的優位に立っている。本来ならば,内政の延長・外交の延長で,問題解決の手段として行使されてきた軍事力が(自国だけの意志では振り回せないという意味で)形骸化し,実際の意志決定権を有しているのは国連やEUなど超国家の決議である。また,その用途も以前のような領土拡張などが目的ではなく,対テロ戦争や,対人権抑圧国家への軍事制裁など「きれいな正義の戦争」しか許されないような風潮になっている。
また,貿易や金融面に関しても,もはや各国政府が独自の政策を打ち出したところで,多国籍企業が一瞬で国家予算に匹敵する額の取引を行えてしまうため,なかなか効果が発揮できない。そのため,政府間の協調作戦によって景気のコントロールや通貨のコントロールを行おうとしているが,これもまた主権の無力化の象徴といえよう。
以上のように,現在の国民国家体制・主権国家体制はグローバル化の波の中でその威光を失いつつある。最近では国家資本主義(State Capitalism)という名の産業振興が行われているが,従来とは比べものにならないぐらい経済も貿易も拡大してしまい,国家政策一つでトレンドを変えることは難しい。日本もまた,建前としては国民主権であり,我々の選挙での一票が国のを動かすと信じている。しかしながら,実際には理想的な条件が整い,国民の意思が正確に国政に反映されたとしても,我々の意志そのものである主権国家が実際に世の中のトレンドを動かすことが出来るかというと疑問が残る。今は近代から次の時代への過渡期へと差し掛かっており,現在の国家体制は数十年のうちに様変わりし,さまざまな実験的国家体制が生まれるだろう。主権国家の弱体化の後に,どのような共同体が望ましいのか,次の実験国家のグランドデザインを考えるときがきているのかも知れない。
Podcast 佐々木毅「権力と自由の生態について」
admin 17 5月 2009 | : Strategy + Geopolitics
無形化された世界では,流動的アナログ力・固定的デジタル力の二つがあり,国家政策や学問における定説などの固定的デジタル力こそが戦略拠点となり,攻防の焦点となっていくことを述べた。いかにしてこれら戦略拠点を攻略すればよいのだろうか。
長沼氏の提案しているデジタル力拠点攻略戦術は,「戦場の移動」「段差防御」「分進合撃」「(デジタル拠点を背にした)各個撃破戦術」などがあり,それらについて以下に紹介する。
流動的アナログ力を用いて固定的デジタル力拠点を攻略したい場合,大きく分けて拠点を無効化する戦術と,拠点を突破する戦術に分けられるが,「戦場の移動」「段差防御」は拠点の攻撃力や価値を無効化させる戦術と言えよう。また「分進合撃」「(デジタル拠点を背にした)各個撃破戦術」は拠点を効果的に撃破する戦術と言えるだろう。
デジタル力拠点を攻略する際に,直接的に力攻めをするのではなく,無効化することで拠点を無価値にしてしまおうというのがこの戦術である。
攻撃側(流動的アナログ力)は,そういう攻略しにくいデジタル拠点を直接攻撃することを避け,むしろそれを迂回して隙間領域に進出する。そして拠点から少し離れた競争力のまだ低い場所を選んで,その未開拓領域を重要領域として開拓し,そこに自分たちの側が新しく拠点を築いてしまうのである。
このようにした上で,戦場全体を次第にそこへシフトさせてしまえば,攻守の構図が逆転し,逆に相手がこちらの拠点を奪い取るためにぶつかってこなければならないだろう。
これは,強大なデジタル力拠点の力を削ぐために,いかにして効率的に敵の戦力を阻止するかという防御的戦術であり,以前にも述べた,自らと比して相手の戦力が格段に小規模な場合には,実力行使に躊躇してしまうという心理的効果を利用している。
すなわち相手の強大な戦力に対抗して,自らも戦力を増強するというオーソドックスな抑止力を使うのではなく,相手とは異なるレベルの戦力を用意する(相手が核ミサイルならこちらは通常兵器で,相手が通常兵器ならこちらはゲリラで)。それにより,相手に戦端を切る機会を与えず,より機動的に効率よく防御線を構築できるのである。
これは,上記の段差防御戦術と,流動的アナログ力特有の流動性の高さを複合した攻略戦術である。
(1) 相手が反撃を加えようと思う規模・次元よりも小さいレベルまで戦力を分散させる。
(2) ただし,戦略目標としての拠点はきっちりと定めておく。
(3) 小規模戦力が各個分進して相手の防御網をかいくぐって突破し,合流して拠点を攻略する。
このような手法を用いることで,相手からすると攻撃目標が小さく,はっきりせず動くに動けない。一方自らの陣営は小規模ながら分進して,同時に拠点に攻勢をかけることが可能となる。
相手からすればハエが一斉に飛んでくるような状態であり,防御は容易ではない。
これは最初に述べた戦場の移動とも関わってくるが,自らが撃って出ることで攻勢を仕掛けるのではなく,相手が欲するデジタル力拠点を餌にして,相手の流動的アナログ力をおびき寄せ,個別に叩く戦術である。流動的アナログ力の短所は戦力を集中することが苦手で,パワーが分散してしまうことにある。そのため,自らがデジタル力拠点を有している場合には,相手の分散したパワーを各個撃破することで優位に戦いを進めることが可能である。
以上のような戦術を組み合わせて駆使することで,効果的に無形化戦略の攻防戦を行うことが可能となる。
上記「無形化世界の力学と戦略」は,現在Amazonには下巻のみしかないので,購入を希望する方は通商産業社 内の長沼伸一郎氏著作物のページにご連絡ください。
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無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) (単行本)


admin 17 5月 2009 | : Strategy + Geopolitics
無形化世界の勢力図を可視化するためには,どのような無形の戦略拠点が存在し,それらの拠点を誰が押さえているのかを考えることが必要である。
まず,拠点獲得をねらうパワーの側に焦点を当ててみよう。パワーには,マネーや情報のように極めて流動性が高く,速度の速いものから,核兵器などのように一朝一夕では手に入れることが出来ず鈍重なものまで多岐に渡る。長沼氏によれば,それらのパワーには一定の法則があり,
パワーの流動性が高くなれば機動性が向上して有力なパワーとなる。ところがその流動性が高くなりすぎると,自身の中に力学を作り出すことが出来ず,かえって鈍重なパワーに戦略を支配されてしまう。
という。
そのため,いかに経済力やメディアが無形化パワーとして肥大化しようとも,依然として鈍重な国家などの意向を無視することは出来ず,常に行動を束縛される結果となっている。
軍事力などの従来型パワーの間隙を縫うようにして,無形化パワーが浸透・席巻することで無形化世界は拡大を遂げてきた。しかし,無形化パワー自体は政治・外交などの目標達成のための一手段に過ぎず,それ自体が戦略目標・戦略拠点とはならない。無形であるがゆえに拠点というべき確固たる戦略目標を定めづらいためである。
以上に記したパワーの特徴から,長沼氏は世の中には二種類のパワーがあると述べている。それは,
- 固定的デジタル力
- 流動的アナログ力
の二つであり,固定的デジタル力は従来から存在する政治や軍事などの「1か0か」で明らかに結果をかえる能力のある力である。例えば,政治でいえば「1(国交を結ぶ)」「0(国交を断絶する)」といった,社会全体に大きな影響を与えうる決断を下せる能力が,固定的デジタル力には存在する。
そして,流動的アナログ力は経済力などの,日々上がったり下がったりを繰り返し,ある時点でガラッと社会を変化させうる能力に欠けるパワーのことをいう。いかに流動的アナログ力である経済力を拡大したとしても,固定的デジタル力の代表である国家が一つ規制法案を作られてしまえばたちどころに窮してしまうというのも,デジタル性(拠点)に欠けるがゆえの欠点である。
以上のことから,無形化世界においても結局のところ戦略拠点となりうるのは,「1か0か」のデジタル性を有する目標であり,デジタル拠点ということになる。無形化陸軍に相当する経済力においての戦略拠点は基軸通貨であり,無形化海軍に相当する知的機関ならば戦略拠点は学会や会議における定説定論である。
これら戦略拠点はひとたび獲得することが出来れば,他者に対して圧倒的な示威力・発言力・強制力を持つ。一企業レベルでいえば,日々の流動的な戦術目標は売り上げアップというエンドレスな戦いであるが,その後得られる果実としての「業界標準や世界標準規格」は他社を市場から追放できるほどの威力を持っている。これは国家レベルでも同じことであり,G20や国連などの国際会議で一度既成事実として方針が決まってしまえば,それを一加盟国レベルで覆すことはきわめて難しい。このような無形戦略拠点が何であるかを見抜き攻略する,あるいは攻略できないならば無効化するというのが今後の戦いの焦点となっていくだろう。
無形化世界において,これらの戦略拠点をいかに攻略していくかについて今後紹介したい。
上記「無形化世界の力学と戦略」は,現在Amazonには下巻のみしかないので,購入を希望する方は通商産業社 内の長沼伸一郎氏著作物のページにご連絡ください。
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無形化世界の力学と戦略―理系からの解析は戦略と地政学をどう変えるか (下) (単行本)


admin 02 5月 2009 | : Business + Analysis

2007年からの金融危機に伴い,Tax Haven ( 租税回避地 ) と呼ばれ世界中の資金のプール先として栄えたケイマン諸島やルクセンブルクが窮地に陥っている。米国やドイツ,フランスなど巨額の損失を抱えた諸国が,Tax Haven諸国に対して顧客情報開示を迫り,巨額の資産を隠してきた資産家たちは泣く泣く追徴課税を支払うか,資産を放棄するかを迫られている。
米国政府説明責任局によれば,以下のように定義されている。
(1) no or nominal taxes; 無税かほぼ無税
(2) lack of effective exchange of tax information with foreign tax authorities; 海外の税務当局に対し課税に関する情報交換が不十分
(3) lack of transparency in the operation of legislative, legal or administrative provisions; 立法・行政条項が不透明
(4) no requirement for a substantive local presence; 現地法人である必要がない
(5) self-promotion Tax Havenとして自己宣伝を行っている
あくまで米国の見解だが,以上の内容から判断すると,自ら進んでTax Havenとして宣伝し資金を誘導しようとしてるペーパーカンパニー歓迎の無税・低税率の国家や地域が該当する。
また,地政学的に安定した地域(戦争の影響を受けにくい永世中立国や太平洋,カリブ海)や,情報インフラ・人的インフラの整った地域(語学力,ネットなどのインフラ)に多い。
かつて1960年代にTax Havenであったレバノンのベイルート,リベリア,モロッコのタンジールなどの地域はどこも内戦や混乱に巻き込まれTax Havenとしての魅力を失い,経済的に見捨てられた地域となった。現在,太平洋・カリブ海諸国が選ばれているのもそうしたリスクを恐れてのことだろう。
Tax Havenという概念自体は,古代より脈々と存在する。他地域より租税を優遇することで商業を振興しようとした通商同盟や,自治都市などである。近年のTax Havenがここまで巨大化するに至った理由の一つは,金融の情報化にあるといえよう。例えば日本で小口証券化として一世を風靡したJ-REITなどの不動産ファンドなどでも当たり前のようにケイマン諸島にペーパーカンパニーを置いて事業を行うようになっていた。
ケイマンSPC
ケイマン諸島の法律に基づき組成される会社のこと。慈善信託を使用することにより特定出資を行ったものからの恣意的な倒産が隔離されることにより設立されることが多い。新SPC法の成立に伴い、特定持分を使用することにより同様の効果があることから、今後は減少するものと考えられる。
このように,自国の法律が事業に向いていないと判断した場合には,国籍移動というアービトラージを用いて事業に利用するというのは,世界の船籍の大半がパナマやリベリア籍になっているのと同様,ビジネスにおいては一般的である。
2009年4月2日のG20にてTax Haven諸国のブラックリストが作成された。
(1) 国際課税基準に事実上従っていると見なせる諸国
Argentina, Australia, Brazil, Canada, China, Czech Republic, France, Germany, Greece, Guernsey, Hungary, Ireland, Italy, Japan, Jersey, Isle of Man, Mexico, the Netherlands, Poland, Portugal, Russia, Slovakia, South Africa, South Korea, Spain, Sweden, Turkey, United Arab Emirates, United Kingdom, and the United States
(2) 国際課税基準に従うと言ってはいるものの遵守していないTax Haven諸国
Andorra, the Bahamas, Cayman Islands, Gibraltar, Liechtenstein, and Monaco
(3) 国際課税基準に従うと言ってはいるものの遵守していない金融センター
Chile, Costa Rica,[51] Malaysia,[51] the Philippines[51] Singapore, Switzerland, Uruguay[52] and three EU countries – Austria, Belgium, and Luxembourg
Tax Havenであることによって飯を食っていた諸国も,結局は大国の言いなりになり,国際課税基準に従わされることになるようだ。もとはと言えば欧米金融資本が練り上げたカラクリの片棒を担ぐことで発展してきた地域ばかりである。あくまで金融資本たちに気に入られるよう知恵をつけてもらって繁栄を謳歌させてもらっていた訳で,今になって反旗を翻すことも出来ないというのが本音であろう。今回の大幅なTax Havenの整理縮小は,レバレッジを駆使した金融戦線の一時縮小を狙う欧米金融資本のビジネスモデルの転換を象徴している。この地殻変動によって,地下(Tax Haven)から地上(欧米金融機関・国庫など)へ吹き出すマネーをどこに注ぎ込むつもりなのかが今後の焦点である。
過去の歴史から察すれば,大恐慌の後は国家主導の大規模公共事業(インフラ事業や戦争)を行い需要を無理矢理生み出して円満解決となるわけだが,果たして今回も同じ歴史を繰り返すことになるか?