Tax Haven の変遷
admin 02 5月 2009 | : Business + Analysis

2007年からの金融危機に伴い,Tax Haven ( 租税回避地 ) と呼ばれ世界中の資金のプール先として栄えたケイマン諸島やルクセンブルクが窮地に陥っている。米国やドイツ,フランスなど巨額の損失を抱えた諸国が,Tax Haven諸国に対して顧客情報開示を迫り,巨額の資産を隠してきた資産家たちは泣く泣く追徴課税を支払うか,資産を放棄するかを迫られている。
Tax Havenの定義
米国政府説明責任局によれば,以下のように定義されている。
(1) no or nominal taxes; 無税かほぼ無税
(2) lack of effective exchange of tax information with foreign tax authorities; 海外の税務当局に対し課税に関する情報交換が不十分
(3) lack of transparency in the operation of legislative, legal or administrative provisions; 立法・行政条項が不透明
(4) no requirement for a substantive local presence; 現地法人である必要がない
(5) self-promotion Tax Havenとして自己宣伝を行っている
あくまで米国の見解だが,以上の内容から判断すると,自ら進んでTax Havenとして宣伝し資金を誘導しようとしてるペーパーカンパニー歓迎の無税・低税率の国家や地域が該当する。
また,地政学的に安定した地域(戦争の影響を受けにくい永世中立国や太平洋,カリブ海)や,情報インフラ・人的インフラの整った地域(語学力,ネットなどのインフラ)に多い。
かつて1960年代にTax Havenであったレバノンのベイルート,リベリア,モロッコのタンジールなどの地域はどこも内戦や混乱に巻き込まれTax Havenとしての魅力を失い,経済的に見捨てられた地域となった。現在,太平洋・カリブ海諸国が選ばれているのもそうしたリスクを恐れてのことだろう。
Tax Haven の利用
Tax Havenという概念自体は,古代より脈々と存在する。他地域より租税を優遇することで商業を振興しようとした通商同盟や,自治都市などである。近年のTax Havenがここまで巨大化するに至った理由の一つは,金融の情報化にあるといえよう。例えば日本で小口証券化として一世を風靡したJ-REITなどの不動産ファンドなどでも当たり前のようにケイマン諸島にペーパーカンパニーを置いて事業を行うようになっていた。
ケイマンSPC
ケイマン諸島の法律に基づき組成される会社のこと。慈善信託を使用することにより特定出資を行ったものからの恣意的な倒産が隔離されることにより設立されることが多い。新SPC法の成立に伴い、特定持分を使用することにより同様の効果があることから、今後は減少するものと考えられる。
このように,自国の法律が事業に向いていないと判断した場合には,国籍移動というアービトラージを用いて事業に利用するというのは,世界の船籍の大半がパナマやリベリア籍になっているのと同様,ビジネスにおいては一般的である。
G20によるTax Haven ブラックリスト
2009年4月2日のG20にてTax Haven諸国のブラックリストが作成された。
(1) 国際課税基準に事実上従っていると見なせる諸国
Argentina, Australia, Brazil, Canada, China, Czech Republic, France, Germany, Greece, Guernsey, Hungary, Ireland, Italy, Japan, Jersey, Isle of Man, Mexico, the Netherlands, Poland, Portugal, Russia, Slovakia, South Africa, South Korea, Spain, Sweden, Turkey, United Arab Emirates, United Kingdom, and the United States
(2) 国際課税基準に従うと言ってはいるものの遵守していないTax Haven諸国
Andorra, the Bahamas, Cayman Islands, Gibraltar, Liechtenstein, and Monaco
(3) 国際課税基準に従うと言ってはいるものの遵守していない金融センター
Chile, Costa Rica,[51] Malaysia,[51] the Philippines[51] Singapore, Switzerland, Uruguay[52] and three EU countries – Austria, Belgium, and Luxembourg
Tax Havenであることによって飯を食っていた諸国も,結局は大国の言いなりになり,国際課税基準に従わされることになるようだ。もとはと言えば欧米金融資本が練り上げたカラクリの片棒を担ぐことで発展してきた地域ばかりである。あくまで金融資本たちに気に入られるよう知恵をつけてもらって繁栄を謳歌させてもらっていた訳で,今になって反旗を翻すことも出来ないというのが本音であろう。今回の大幅なTax Havenの整理縮小は,レバレッジを駆使した金融戦線の一時縮小を狙う欧米金融資本のビジネスモデルの転換を象徴している。この地殻変動によって,地下(Tax Haven)から地上(欧米金融機関・国庫など)へ吹き出すマネーをどこに注ぎ込むつもりなのかが今後の焦点である。
過去の歴史から察すれば,大恐慌の後は国家主導の大規模公共事業(インフラ事業や戦争)を行い需要を無理矢理生み出して円満解決となるわけだが,果たして今回も同じ歴史を繰り返すことになるか?